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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和37年(む)63号 判決

被告人 上野数馬

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する傷害被告事件につき当裁判所の言渡した確定判決による裁判の執行に関し右の者より異議の申立てがあつたので当裁判所は検察官の意見をきいたうえ次のとおり決定する。

主文

本件異議の申立はこれを却下する。

理由

申立人の本件異議の要旨は、「申立人は、昭和三六年六月三〇日長崎地方裁判所佐世保支部において、傷害罪により懲役三月、殺人罪等により懲役一〇年の判決の各言い渡しを受けたので、申立人において福岡高等裁判所に控訴の申立をしたが、同年一一月二〇日控訴棄却の判決を受け、最高裁判所に上告申立中のところ、同年一二月二八日右判決中傷害罪の懲役三月の部分につき上告の申立を取り下げた。そこで右傷害罪の懲役三月の刑は即日確定した。ところで当時申立人は傷害罪、殺人罪の各事件に因り夫々の勾留状によつて勾留されていて、右確定の傷害罪についての刑の執行を直ちに受けるのに何らの支障がないのに福岡高等検察庁検察官は昭和三七年一月一八日になつて、右の刑の執行指揮をなし、その刑の起算日を右執行指揮をなした日としている。これは検察官の責に帰すべき事由によつて右執行をおくらせたものであつて、刑法第二三条第一項の刑期の計算に誤りがあり不当であるから、右検察官のなした裁判の執行指揮の是正を求めるため本件異議に及ぶものである。

というのである。

そこで取り寄せにかゝる本案記録(昭和三六年(う)第六六〇号)及び本件申立編綴記録によれば、申立人の主張のごとく申立人は昭和三六年六月三〇日長崎地方裁判所佐世保支部において判示第一の(一)の罪、即ち本件傷害罪により懲役三月、その余の殺人罪等により懲役一〇年に各処せられ、同年七月一二日に控訴の申立をなし、同年一一月二〇日右控訴は棄却され同年一一月二九日上告の申立てをなしたところ、同年一二月二八日右傷害罪の懲役三月の部分につき上告申立てを取下げたので、右刑は即日確定したこと、及び昭和三七年一月一八日福岡高等検察庁検察官が右確定した刑の執行の指揮をなし、その刑の起算日をその執行をなした右同日としたことが認められる。

ところで申立人は昭和三五年一月三〇日判示第一の(二)の傷害被疑事実で鹿屋簡易裁判所裁判官より、同年一〇月二二日判示第二の(一)の殺人被疑事実で長崎地方裁判所佐世保支部裁判官より、それぞれ勾留状が発せられ、右各事実がいずれも公訴提起され、併合審理された後も右の傷害及び殺人被疑事実で二個の勾留状により勾留され、従つて前記判示第一の(一)の罪である懲役三月の刑の確定当時、申立人は右二個の勾留状により勾留されていたことが明らかである。しかして、申立人には昭和三四年九月二五日鹿屋簡易裁判所で脅迫、傷害罪により罰金一〇、〇〇〇円に処せられた確定判決があるため、これと右の確定の本件判示第一の(一)の傷害罪とが刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるため同法第五〇条によつて右本件判示第一の(一)の傷害罪が処断され主文が二個言い渡されたものであつて、申立人が右のごとく勾留されていた判示第一の(二)の傷害罪、また判示第二の(一)の殺人罪とは何ら併合罪の関係になかつたのである。従つて、本件判示第一の(一)の傷害罪の懲役三月の刑についてのみ上告の申立の取下げが可能であり確定したのである。

しからば、右刑の確定当時、その刑に関係する罪については不拘禁であつたから、刑法第二三条第一項の適用がなく、その刑の起算日は検察官がその刑の執行を指揮し、現実に収監された日から起算されるべきことになる。

とすれば検察官の本件執行指揮は何等瑕疵がなく、申立人の本件異議申立は理由がないものといわなければならない。

よつて、これを却下することとし、主文の通り決定する。

(裁判官 原清 杉山修 大隅乙郎)

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